研究概要 |
昨年度までの研究で,我々は大脳からの下行路のうち,皮質脊髄路線維の顎髄呼吸性ニューロンおよび横隔膜運動ニューロンに対する接続様式について微小電気刺激法により明らかにした. 本年度は,この大脳からの下行路の接続に関し,組織学的裏付けをすると共に,赤核脊髄路の下行性接続についても比較検討した.ネコ大脳皮質の一側のSM野(sensory motor area)に順行性標識物質のPHA-L(2.5%)をガラス微小電極にて微量(1μl)注入し,17日〜33日後に脊髄薄切片を作製し,ABC法にて反応を行ない,標識線維の有無を調べた.PHA-L注入後17〜20日後の例では,注入と反対側の上部顎髄(C_1-C_2)の後角基底部から灰白質中間帯外側部(Rexed VII層)に標識線維が認められ,その軸索終末枝と思われる線維が,呼吸性ニューロンの局在する外側部まで分布しているのが確認された.PHA-Lを注入後25〜33日の例で調べた下部頸髄(C_5-C_6)では,同様に後角基底部の内側部から灰白質中間帯(Rexed VII層)に終末線維が分布していた.また数例では,軸索線維が前角にまで伸び,横隔膜神経核まで達しているのが確認された. 皮質脊髄路線維との比較のため,赤核に微小電極を刺入し,微小電気刺激(100μA以下)をしたが,延髄および脊髄の呼吸性ニューロンにはほとんど促通または抑制性効果は認められず,数例で横隔神経発射に弱い促通効果のみが認められた. これらの研究成果から,脳幹から脊髄にまたがる呼吸神経機構に対して,大脳性入力としては特に皮質脊髄路線維による下行性入力が重要な役割を果していることが示唆された.
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