研究概要 |
スライス標本ではなく実際の生体脳での頻回活動中のシプナル伝達の頻度増強作用あるいは促進現象の長期強化についてはスライス標本の場合と相違があるのか全く解っていない。この研究では麻酔下で数回以内のトレイン刺激の繰り返しによって生じる興奮性シナプス強度の頻度増強作用(frequency potentiation:FP)の数量的解析を反応面積(mV-msec)を測定する事によって行い、FPの長期増強の特性を明らかにするとともに、NMDA受容体やGABA伝達のantagonistsによりその量的変化が如何に変化するかについても調べ、FPの長期増強とLTPの関係を明らかにした。 1 手術創の回復後、無麻酔・無拘束の状態で10Hz,100発のトレイン刺激を慢性的に加え、毎回のトレイン刺激中の全ての嗅内野誘発反応について興奮性シナプス活動に由来する陰性波成分の振幅と面積の変化を調べたところ、促進(頻度増強)現象はまず最初に単シナプス性興奮伝達成分に生じ、それに引き続いて多シプナル性成分の増大が生じることが明らかにされた。更にトレイン刺激回数の増加につれ、単シナプス性成分の増大よりも多シナプス性成分の増大がより著明になった。 2 各トレイン刺激の前後に単発テストパルス(0.3Hz)を与えて単発性シプナル伝達の興奮性成分の長期増強作用LTPの変化も同時に調べたが、促進現象の反応面積のトレイン刺激回数に応じた増大とテスト反応の反応面積として調べられたLTPの発達の間には統計学的に有意な相関関係がみられ、促進現象の活動に応じた増大がLTPの電気生理学的原因と考えられた。 3 各トレイン刺激中の加算平均された促進現象の反応から各トレイン刺激直前の加算平均されたテスト反応を差し引きする事によって実際の促進現象の波形と大きさを調べると促進現象には単シナプスのみならず多シナプス活動のNMDA受容体の活性化によるslow potentialの成分をふくむことがわかった。 4 腹腔内注射で脳内に作用するNMDA受容体のアンタゴニストであるCPP投与下でトレイン刺激を加え、促進現象の増大の時間経過の変化を数量的に調べた結果、non-NMDA受容体とNMDA受容体にそれぞれ依存した促進(頻度増強)現象の成分があり、ともに頻回活動中の促進現象やテスト刺激によるLTPのトレイン刺激回数の増加によるlong-lasting enhancementに関わりを有する事が明白になった。 5 以上の結果より、回路網の限られたスライス標本ではなくニューロン回路網の複雑な生体脳にあって、日時のオーダーでシナプス伝達の頻回活動を起こさせると、促進現象は単シナプス活動のみならず多シナプス活動的にも長期増強を生じ、それがテスト刺激で調べられるLTP原因となっている事が明らかになった。
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