キンカチョウの雄は、臨界期に父親の歌を鋳型にして歌を学習する。この歌学習は歌を産生する大脳発生中枢を中心とする神経回路で生じている。我々は、大脳発生中枢RAにおいて、歌の臨界期に一過性にAChとその合成酵素であるChATの酵素活性が増加していることを見つけた(1991、Dev Brain Res)。AChが、どの様な分子機構で鳥の歌学習に関係しているのかを明らかにする目的で実験を行い、以下の事を明らかにした。 1、ACh刺激によるイノシトール代謝回転(PIレスポンス)を測定して、RAニューロンに対するAChの作用がPIレスポンスを介したCキナーゼの活性化にあること、さらに、発生段階を追ってACh刺激によるPIレスポンスを調べたところ、歌の臨界期に一過性に増加していることを見つけた。 2、Cキナーゼ染色用蛍光プローブRIM-1を用い、CキナーゼのRA内分布を調べたところ、歌の臨界期にRAニューロンの細胞体、樹状突起、神経終末に多量のCキナーゼ発現を観察した。 3、Cキナーゼの基質であるGAP-43mRNAは、RAに神経終末を送っているHVcニューロンの細胞体上に、歌の臨界期に一過性に強く発現することを、DigラベルGAP-43mRNA In situハイブリダイゼーションにより明らかにした。 我々は、これまでキンカチョウの歌の臨界期に特異的に変化する物質を探した。その結果、ACh量の増大、PIレスポンスの増大、Cキナーゼの発現の増大があることを明らかにした。これらの事実は、AChによって駆動されるPIレスポンスがCキナーゼ酵素活性を増加させ、機能タンパク質のリン酸化を引き起こし、歌学習期のRAシナプス可塑性を制御している可能性を強く示唆している。
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