研究概要 |
我々はLHRHニューロンが嗅板より発達し脳内へ移動し,中隔-視束前野-視床下下部系へ分化することをニワトリ胚やイモリ胚の嗅板を除去することにより証明した(Akutsu et al,1992;Murakami et al,1992)。 1.脳内に分布するLHRHニューロンの移動の機序をガイドする構造的,化学的要因を解析する目的で,LHRHニューロンの前駆細胞が存在する3.5-4.5日ニワトリ胚の嗅板を外科的に除去した。嗅板除去が完全の場合,嗅神経もLHRHニューロンも出現しない。嗅板の除去が不完全で,嗅神経の発達途中までしか発達しない場合,嗅神経が消失する末端のところに多数のLHRHニューロンが停滞し,それより先の部分にはLHRHニューロンは認められなかった。嗅神経が欠如し,かなりの数のLHRHニューロンの前駆細胞が傷の影響を免れた場合は,LHRHニューロンは三叉神経から嗅上皮周辺に分布する感覚神経束に沿って移動するのがみられた。このことからLHRHニューロンに移動をガイドする構造的誘導路が必須であることが示唆された。 2.3.5-4.0日ニワトリ胚の嗅覚上皮細胞をDiI色素で標識し,in vivoで経時的に標識ニューロンを追跡すると,DiI標識ニューロンはLHRHニューロンとほぼ同じ分布パターンを示し,やがて脳内に出現した。そして,脳内のDiI標識細胞の大部分がLHRHを発現することが判明した。このことからLHRHニューロンは嗅上皮から発生し,脳外から脳内へ移動することが証明された(Murakami & Arai,1994)。 3.移動中のLHRHニューロンとその移動誘導路と考えられる嗅神経は胎児型NCAM(NCAM-H)を強く発現し,移動終了とともに消失する(新井、石、1993;Seki & Arai,1993)。また,LHRHニューロンの移動と同じ時期に嗅覚上皮と嗅神経と前脳部にソマトスタチンが発現することが見つかった(Mrakami & Arai,1993)。LHRHニューロンの移動と嗅覚-前脳系におけるこれらの分子の発現の初期発生過程における機能的意味を解明するのが次の課題である。
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