感覚受容細胞は外来刺激を体内情報として電気信号に変換するが、この情報変換に関る細胞内機構は不明なものが多い。脊椎動物の視細胞では細胞内のcGMP濃度変化がイオンチャネルの開閉を制御すると考えられ、これを支持する多くの実験事実がある。一方、無脊椎動物の視細胞では光刺激直後細胞内のカルシウム濃度の上昇が見られ、このカルシウム上昇はイノシトール三リン酸(IP3)を仲立ちとすること、IP3を細胞内は注入すると光応答様の電位が観察されることなどからIP3セカンドメッセンジャー説が唱えられた。しかしIP3によりもたらされるカルシウムの細胞内濃度上昇をEGTAなどのカルシウムキレータにより抑えても光応答は依然として発現することから疑問視されはじめた。一方、ショウジョウバエの突然変異体の実験から視興奮にはIP3の前駆体であるPIP2の加水分解を触媒するフォスフォリパーゼC(PLC)が必須なことが示された。光応答の発現にはPLCは必須だがIP3は必要ないという実験事実を説明するモデルとしてPIP2の加水分解に伴う細胞膜での電荷の変動に着目した。すなわちPIP2、IP3はともに5個の負電荷を持つが、PIP2の加水分解の結果、IP3は細胞質へ移動し膜には電荷を持たないヂアシルグリセロール(DG)が残り、膜表面では5個の電荷が変動したことになる。この電荷変動をネオマイシン、スペルミンなど正電荷の物質で中和すると光応答は著しく減弱した。またイノシトールリン脂質代謝回転系の各部を種々の薬物でとめても光応答の変化が観察された。これらの詳細は現在学会誌に投稿中である。
|