研究概要 |
音の情報は鳥類では延髄に存在する大細胞核(NMC)及び角状核に投射される。この二次ニューロンの一つであるNMCは音の位相を捉え、両耳間時差を検知しているとされる層状核(NL)に両側性に投射する。これらの核は音源を定位するために重要な中継核であると考えられているが、細胞生理学的には充分理解が進んでいない。本研究はNMC,NL細胞の膜特性及びこれらの細胞におけるシナプス伝達機序を解析することにより音の位相や両耳間時差をコードする機構を解明する事を目的とする。 受精後14-18日の鶏卵からNMC、LCを含む厚さ130μmのスライス標本を切り出し、本年度はNMC細胞に、パッチクランプ法を応用し、膜の受動的性質および膜電流系を解析した。 この細胞は通常-67mVの静止膜電位を持ち、膜抵抗660MΩ、時定数13ms、閾膜電位は-40mVであった。長い脱分極刺激に対してはその立ち上がりに際して一回だけ活動電位を発生させた。この性質は音の位相を捉えることに有利であると思われた。膜電流としては、TTXで阻害されるNa電流、LVH,HVAの二種のCa電流、静止膜電位付近で既に活性化される速い外向き整流K電流が認められた。この外向き電流の一部は4AP(0.5mM)で阻害される速い活性化と比較的ゆっくりした不活性化を示す、いわゆるA-cuurentであった。この電流を抑制すると、この細胞に特徴的なphasicな応答が消失することから、このA-電流が音の位相をコードするために必須であると考えられた。 シナプス伝達に関しては、NMC細胞へは興奮性入力としてVIII神経からのCNQX(一部はAPV)で阻害されるグルタミン酸応答が観察された。また抑制性入力としては起源はいまのところ不明であるがbicucullineで阻害されるGABA応答が観察された。
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