音源定位(sound localization)の神経機構の解明は、1970年後半から1980年前半にかけてメンフクロウを用いたKonishiらのグループの研究によって飛躍的に進んだ。それまでの実験心理学的手法によって推定されていた両耳間の音圧の差や音の到達時間の差を検出する機構が、それぞれ別個の神経伝導路において並列的に存在することが明らかになった。鳥類では角状核(NA)から始まり下丘中心核内側シェルに終わる伝導路が両耳間音圧差を検出する経路であり、大細胞核(NMC)に始まり下丘中心核コアに到達する伝導路が両耳間時差を検知する経路である。音源はこの二つの経路によって検知された情報を基に下丘で定位されると考えられている。本研究では両耳間時差を検出する経路の最初の神経核であるNMC細胞の生理学的特性やシナプス伝達機構を調べた。その結果、1.NMC細胞は樹状突起を持たず、calyx状のシナプス終末によりシナプスが細胞体上に形成されることが確認され、また 2.NMC細胞はpatch電極による細胞内通電刺激により活動電位を発生するが、通電刺激の強度や持続時間によらずその発生は常に一個であり、しかも刺激の初期に限局すること、3.このような興奮性は4-AP感受性のK電流が低い膜電位で活性化されるCa電流を抑えることによって実現され、音の位相情報を保存し伝達させるためにきわめて合目的であること、4.蝸牛神経からは興奮性アミノ酸によるシナプス伝達がおこること、5.起源は不明であるがGABAによる抑制性シナプス伝達も存在することが明らかとなった。申請書で計画した膜電位感受性色素による層状核(NL)での両耳間時差を検知する細胞のマッピングは色素をCa感受性のものに変えて現在も実験を継続している。今後さらに上位の神経核細胞へも研究をボトムアップ的に広げ、最終的には音源の音源定位を可能にする聴覚情報の処理機構の全貌を理解することを目的としている。
|