大脳皮質は一般に、マイネルトの前脳基底核に由来する、コリン作動性線維の支配を受けている。視覚野や体性感覚野など大脳皮質感覚野のニューロンはアセチルコリン(ACh)に対する受容サイトがあり、感覚応答が多くの場合増強されることが知られている。味覚野においてはコリン作動性神経支配の重要性が指摘されているが、味覚ニューロンに対するアセチルコリンの作用についての研究はまだない。本研究ではウレタンで麻酔したラットの大脳皮質味覚野から多連微小電極を用いて味覚ニューロンを記録し、自発放電と味応答に対するアセチルコリンの作用を調べた。記録した62個の味覚ニューロンのうち、アセチルコリン(<100nA)に対して興奮性に応答したもの10個、抑制性に応答したもの2個で、多くのもの(約80%)の自発放電頻度は変化しなかった。これは各種の脳アトラスに見られるように、島皮質のアセチルコリン染色性が弱いのと一致する。一方、四基本味(食塩、ショ糖、塩酸、キニーネ)に対する応答への影響は10個の味覚ニューロンについて定量的に調べた。このうち、2個は興奮性に、4個は抑制性に影響を受けた。この所見は、まだ例数が少ないが、視覚野や体性感覚野などに比較し、味覚野でアセチルコリンが抑制性である傾向が高いことを示唆している。
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