小脳長期抑圧(LTD)は平行線維と登上線維の同時刺激を必要とする。登上線維入力がLTDの発生に関わるメカニズムの一つに登上線維刺激後に発生するNOが重要であるということが判っているが、どの細胞からNOが発生するのかまだ同定されていない。神経系のNO合成酵素はカルシウムによってその活性が調節されるので登上線維入力がプルキンエ細胞やNO合成酵素を持つバスケット細胞の細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させ、NOを発生させるという可能性が考えやすい。しかしながら我々の従来のデータではnonNMDA型グルタミン酸受容体のアンタゴニストであるCNQXを用いてもNO放出反応はブロックされなかった。今回NO電極を小型化してNO測定にともなうシナプス伝達のダメージを少なくして実験したところ、登上線維刺激による5nM程度のNO上昇反応を分子層において記録した。しかもこの反応はCNQX(10μM)でほぼ完全にブロックされ、D-APV(100μM)によってほとんど影響を受けなかった。この薬理学的性質はプルキンエ細胞でみた登上線維反応と一致する。以上のことから小脳LTD成立に重要な登上線維刺激後の分子層のNO発生源はプルキンエ細胞であるという可能性が示唆される。現時点ではしかしながらプルキンエ細胞にNO合成酵素が存在するとの確証がない。従ってNO合成酵素を持つことが既に知られているバスケット細胞が登上線維によって駆動されNO発生源として働くという可能性も否定できない。
|