研究概要 |
本研究は、1つの劣性遺伝子が引き起こす先天性不妊と精巣性テラトーマの動物モデル系として、マウスの始原生殖細胞の増殖を抑制し、且つ、特定の遺伝的背景においては、始原生殖細胞のテラトーマ化を促進する変異遺伝子ter(teratoma)の作用点が、生殖細胞にあるか、或いは、生殖細胞の環境をなす体細胞にあるかを知るために、terコンジェニック系統と129/Sv-ter系統の、始原生殖細胞と胎仔精巣の体細胞を、ter遺伝子型に関し種々に組み合わせ、再構成精巣を作出し、生殖細胞の欠損或いは精巣性テラトーマの形成が起きる組み合わせを、発生工学的に解析することを目的として、以下の研究実績を得た。 1。terコンジェニック系統には、ter/ter(生殖細胞欠損)、+/terおよび+/+(ともに正常な精巣)の3種の遺伝子型が存在するが、ter遺伝子座が第18番染色体のGrl-1遺伝子座と連鎖し、Grl-1のミニサテライトDNAのPCR多型により、胚から成体まで各ter遺伝子型を判定することができた(Sakurai et al,1994)。ter/ter型8.0日胚から始原生殖細胞の欠損が確認できた(Sakurai et al,印刷中)。そこでLTXBJ-ter系統の各胎仔のter遺伝子型をこの方法で判定し、胎仔の精巣の生殖細胞と体細胞を培養分離し、ter/+及び+/+型生殖細胞を同遺伝子型あるいはter/ter型の体細胞と組み合わせ、懸滴培養法と移植で、再構成精巣へ分化させ組織学的に調べた。生殖細胞は、前者では増殖し分化したが、後者の場合には生殖細胞の分裂周期の特定の時期に死滅した。この結果、ter遺伝子は、少なくとも胎仔精巣の体細胞で機能し、生殖細胞の欠損を起こすことが示された。2。LTXBJ及び129/Sv-ter系統の胎仔精巣の生殖細胞と体細胞を組合せた再構成精巣では、精巣性テラトーマの発症率に種々の差があった。よって、生殖細胞のテラトーマ感受性とその発現を制御する体細胞の役割が示唆された。
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