研究概要 |
本研究は、マウスの始原生殖細胞(PGC)の増殖障害を起こし、且つ、129/Sv-ter系統においてはPGCの精巣性テラトーマ化を促進する変異遺伝子ter(teratoma)の作用点が、生殖細胞にあるか精巣体細胞にあるかを、terコンジェニック系統を用いて発生工学的に解析することを目的とし、以下の成果を得た。 1)terコンジェニック系統、C57BL/6J-ter(B6-ter),LTXBJ-terおよびC3H/HeJ-ter(C3H-ter)を樹立し、ter/ter生殖巣は生殖細胞欠損のみ起こし、矮小生殖巣となり、129/Sv-ter系統以外の遺伝的背景では、精巣性テラトーマを起こさないことを確定した。2)ter遺伝子座が第18番染色体のGrl-1遺伝子座とO-2cM以内に連鎖していること、及び、Grl-1遺伝子のミニサテライトDNAの系統間のSSLP多型から、各胚の3種のter遺伝子型が判定できることを示した。3)B6-terおよびLTXBJ-ter系統の胚当たりのPGC数をter遺伝子型ごとに集計し、ter遺伝子は、7.5日胚のPGCの出現には作用しないが、移動・増殖開始期の8.0日胚からその増殖に障害を起こし、胎仔精巣の生殖細胞に細胞周期のM期の後アポトーシスを起こさせることを示した。4)各ter遺伝子型の胎仔精巣を成体精巣に移植し、ter/ter型生殖細胞欠損は、精細管内の自律的欠陥によることが判明した。5)胎仔精巣の生殖細胞と体細胞を分離し、+/+および+/ter型生殖細胞と同遺伝子型或いは、ter/ter型の体細胞との再集合塊および再構成精巣を発達させると、後者の組み合わせのみで生殖細胞欠損がおき、ter遺伝子は体細胞に作用して、生殖細胞欠損を引き起こすことがわかった。6)胎仔精巣の再構成精巣では、精巣性テラトーマの形成に体細胞の系統差が重要なことが示唆された。
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