マウスの種間雑種にみられる雄性不妊現象の遺伝的支配機構と、妊性を有する種間雑種雌マウスにおける配偶子の後代への伝達の異目的で、以下の研究を行ない、いくつかの成果をあげた。 1)性染色体の偽常染色体部位の妊性に及ぼす影響を明らかにするため、実験用近交系マウスC57BL16にヨーロッパ産野生マウスMus spretus の偽常染色体部位を導入したコンジェニックマウスを作製した。その結果、ヘテロ接合型の偽常染色体部位をもつ雄個体では、性染色体の対合は異常となり、精子形成は精母細胞第一減数分裂中期で阻害された。さらに、常染色体の対合には異常がみられないことから、偽常染色体部位の遺伝的分化に伴う性染色体対合の異常がマウスの種間雑種雄性不妊現象の遺伝的要因のひとつであることが明らかとなった。 2)C57BLとM.spretusを用いた戻し交雑によって得られた150個体についてmajorサテライトDNA配列の分布を遺伝的マーカーとしてFISH分析を行ない、動原体近傍領域における染色体分離のひずみの有無を検討した。その結果、spretusとの戻し交雑においてspretus由来の動原体近傍部位がやや優位に後代に伝達される傾向がみられたが、大きな分離ひずみは検出されなかった。また特定の染色体の組合せが優位に伝達される傾向もなかった。
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