M.spretusの偽常染色体部位をC57BL/6(B6)に、またB6の偽常染色体部位をM.spretusに導入したコンジェニック系統を作製し、精母細胞におけるXY染色体の対合異常と妊性の関係を詳しく調べた。偽常染色体部位がホモ型の個体はすべて性染色体の対合は正常で妊娠をもつのに対し、ヘテロ型の個体は高頻度の性染色体の対合異常を示し精子形成はMI期で停止した。一方常染色体のみをヘテロ型にした場合、妊娠をもつ個体が出現したことから、この種間雑種にみられる雄性不妊の主な要因は性染色体の対合異常であることがら判明した。またB6雄とM.macedonicus雌の交配で得られたF_1雑種をB10雄と戻し交雑とて得られた79個体について、妊性の有無及び精母細胞における性染色体の対合状態を調べた結果、この種間雑種にみられる雄性不妊現象は、性染色体対合を支配する偽常染色体部位以外に、精母細胞前期で大きな効果を持つ常染色体性因子が関与している可能性が示唆された。B6とspretus間の雑種雌から得られた戻し交雑個体について、サテライトDNAをプローブとしてFISH分析を行い、動原体近傍領域における染色体分離ひずみの有無を検討した。その結果、spretus由来の染色体がやや有意に後代に伝達される傾向がみられたが、大きな分離ひずみは検出されなかった。また特定の染色体の組み合わせが有意に伝達される傾向もみられなかった。これらの結果は、動原体近傍の染色体領域についてみる限り、種間雑種雌の配偶子形成過程及び戻し交雑第一代の胎児発育過程において特定染色体の顕著な分離ひずみは存在しないことを示している。
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