研究概要 |
血管壁の構造を血管内から観測できる血管内超音波イメージング法は,冠動脈疾患や動脈硬化症の極めて有力な形態診断法として注目されている.本研究では,(1)血管壁の音速・音響インピーダンスなど,系統的知見に乏しいとされる血管壁の基本的音響特性の解明,(2)血管内イメージング法を用いて形態と同時に血管壁の硬さをも取得できる手法の開発,(3)新規なビーム直交型相関血流計の考案と試作,を行って,形態・硬さ・流れを同時計測できる新たな血管内超音波診断法の可能性を理論的・実験的に検証することを目的とする.本年度は,以下の成果を得た. 1.血管壁の基本的音響特性に関し,(1)血管壁の音響インタピーダンス(音速×密度),(2)血液の音響インピーダンス,(3)血液Ht値と壁エコー反射率の関係,を家兎摘出大動脈を対象に測定した.音速は温度37℃で1601±12m/sec,密度は1.072±0.0004であった.血管壁と血液の音響インピーダンスには1〜2%の相違しか認められず,Ht値35〜40%における反射率の実測値及び理論値は,ともに0.5〜1%と小さな値を示した.このことは,壁からのスペキュラーエコー成分が,壁性状やHtにより消失したり,あるいは数倍にも増加することを示唆するもので,血管壁を対象とした超音波計測に有用な新知見である. 2.血管内イメージング法を用いた血管弾性率の計測に関しては,血管内プローブ,送受信回路,血圧計,計算機から成る計測システムと,画像処理により血管内腔断面積を自動抽出し,その拍動性変化から弾性率を算出するアルゴリズムを完成した.さらに,本法によりイヌ大動脈の弾性率分布を計測して,申請者らがこれまでに開発した高精度な血管内トランスデューサ(動脈硬化度測定用,イメージング機能なし)の測定結果と比較したところ,両者はよく一致し,イメージング法による弾性率計測の可能性を実証できた.
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