本年度は、前年度行った測定法に関する理論的な検討結果をもとに、以下の事項について検討した。 1.速度ベクトル空間分布の表示法の検討 血流の測定結果は、速度ベクトルの3成分を、測定点に対応する三次元空間内の分布として表示する必要がある。このため、流れの状態を医師などが把握し易い形で表示することも、臨床応用の際は重要になる。ここでは、三次元空間内に指定された任意の断面について、断面上の成分を図形的にまた、断面に垂直な成分を色で表現する手法を考案した。さらに幾つかの模擬的な流れパターンに対して、視認性の高さを検証した。 2.基礎実験システムによる検討 本研究で提案した手法は、二次元アレイ状の超音波振動子を用いることを前提としている。しかし、現状ではまだ二次元アレイ振動子の市販品はなく、新たに製作する場合、その駆動系も併せると、予想よりも多くの時間と費用を必要とすることが判明した。このため、固定焦点の単一円板からなる超音波プローブを5つ組み合わせて、送受信系を構成した。これは、測定点が与えられた場合の、アレイ面内における送信および受信の振動子素子の組合せに対応している。また、水中や組織ファントム内に置かれたシリコンチューブ内に微小気泡を含む水を環流させ、疑似血流を作成した。数MHzの振動子を用い、流速や送受信用振動子の位置関係を様々に変えて、気泡からの散乱波を受信し、速度ベクトルの算出を試みた。 その結果、高いS/N比が得られる場合、十分な精度で血流ベクトルの計測が可能で、分解能などの実験値は論的解析結果に対応すること、また測定精度は振動子面から血管までの介在組織による減衰に依存することが示された。以上により、当初の研究目的は概ね達成されたと思われる。
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