研究概要 |
細胞膜上に存在する糖鎖レセプターの認識を利用した薬物の標的細胞への選択的運搬を期待して、糖鎖を導入した高分子プロドラッグに関する研究を行った。まず、ポリリンゴ酸やポリエチレングリコール(PEG)をキャリヤ-として、制癌剤アドリアマイシン(ADR)と共に細胞認識能を有する糖鎖を担持したコンジュゲートおよび多糖をキャリヤ-としたコンジュゲートの合成を行い、1)ポリリンゴ酸、およびPEGにADRと糖鎖を担持したコンジュゲート、2)リソソーム酵素感受性ペプチドスペーサーを介してADRを担持したCM-キチンおよびCM-N-アセチル-a-1,4-ポリガラクトサミンコンジュゲート、を得た。続いて合成されたコンジュゲートからの薬物放出挙動および制癌活性を評価し、高分子プロドラッグという手法による糖鎖の細胞認識能を利用した制癌剤の選択的薬物配送システムについての基礎的検討を行ない以下の様な結果を得た。 1)各種高分子プロドラッグの水溶液中でのでの分子状態を光散乱法などにより解析したが、分子集合体などの形成は認められなかった。 2)非酵素的、酵素的条件下での高分子プロドラッグからの薬物放出挙動をHPLC法で解析した。特にオリゴペプチドスペーサーを介してADRを担持したコンジュゲートでは、リソソーム酵素存在下でのみ薬物の効果的な放出が確認された。 3)糖鎖を有する高分子プロドラッグの種々の腫瘍細胞に対する細胞毒性を検討したところ、ガラクトースを有するコンジュゲートでは、ガラクトースレセプターを有するヒト肝癌細胞に対する選択的な細胞障害活性が発現することが確認され、糖鎖認識を介した選択的な取り込みが起こっていることが示唆された。 4)マウスなどを用いた動物実験における制癌活性は現在検討中である。
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