フォーマリズム美術批評の歴史的展開

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05710027
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 川田 都樹子 (達城 都樹子) 大阪大学, 文学部, 助手 (00236548)
• キーワード: 芸術学 / 美学 / 美術史 / 美術批評 / フォーマリズム / モダニズム / 現代芸術 / グリーンバーグ

研究概要

〈芸術諸学と芸術批評と芸術作品の関わり〉
美学の自律性を確立したカント、これを発展的に継承し、純粋視覚の理論を用いて芸術学を美学から独立させる方向を見いだしたフィードラ-、これを受け継いで、美術史を視覚の歴史と定義し、様式史としての美術史を提唱したブェルフリン。独における、ある意味では、フォーマリズムの系譜とも言えるこの芸術諸学の展開を根底に持ちつつ、米20世紀半ばのフォーマリズム批評を代表するC.グリーンバーグは、同時代の芸術諸作品の評価・分析を行う。彼にとって、先駆となる美術批評は、イギリス20世紀初頭のR.フライである。フライのフォーマリズムとは、まさに、仏のフォーマリスティックなモダン・アートが、それまで文学色の濃いラファエロ前派などを主流としていたイギリスに上陸してくる時代に不可欠のものであった。さらにフライが、影響を受けた批評家とは、独のマイヤー・グレーフェ、仏のモ-リス・ドニであるが、前者は独の芸術論に関わりながらも、むしろその観念論の性質を受け継ぎ、フォームの問題に留まるよりむしろ、作者存在に留意するものだった。後者は、自身も仏のモダン・アートの作者であり、極めてフォーマリスティックだが、芸術諸学との関連はうすい。この両者を止揚しつつフォーマリズム批評を成立させたのがフライだったのである。グリーンバーグは、アメリカ抽象表現主義の作品に対する批評において、フライに倣いつつフォーマリズムを見事に適応させたが、しかし、それ以後の現代芸術への適応は不可能であった。というのも、現代において芸術作品も芸術諸学もフォーマリズムから離れていたためである。フォーマリズム超克の試みは、現在、様々になされているが、むしろ独の芸諸学においてフォーマリズム超克に成功したハイデガ-にまで逆上り、芸術存在の本質から問わねばならないだろう。

研究成果

• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "美的判断としての崇高" 『BT』美術出版社. 4月号. 238-239 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "作品を『芸術』たらしめるものとは?" 『BT』美術出版社. 7月号. 236-237 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "カント美学で、ポストモダンを語る" 『BT』美術出版社. 10月号. 260-261 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "フォーマリズム批評の展開-R.Fry,His Conversion" 『Visual Field』はままつ美術研究所. VOL,6. 5-5 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "グリーンバーグとその周辺-モダニスム理論とフォーマリズム批評をめぐる様々の言説" 『EYES/丸善新刊洋書案内』. 第4号. 18-26 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "絵画芸術としての限界点の探究" 『金子正二展』カタログ ギャラリー・ラ・フェニーチェ. 1-2 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『絵画』であるということ" 『A&C』京都芸術短期大学. No.23. 近刊. (1994)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『美術批評の現在---その位相学的検証』共著(神林恒道編)" 素人社, 141 (1993)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『学術学フォーラム・第2巻・芸術学の射程』共著(原田平作・神林恒道・岩城見一編)" 勁草書房(近刊), (1994)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『アンソロジー・現代芸術論(仮題)』共訳(神林恒道・藤枝晃雄監修)" 勁草書房 (近刊), (1994)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『芸術理論の現在』共著(藤枝晃雄・谷川渥編)" 東信堂 (近刊), (1994)
• [文献書誌] 川田都樹子(達城都樹子): "『クレメント・グリーンバーグ撰集』共訳(藤枝晃雄監修)" 勁草書房 近刊, (1994)
• [文献書誌] 石田正: "『天地耕作とハイデガ-の地天神人論』(川田都樹子「あとがきにかえて」)" 天地耕作・村上誠,村上渡,山本祐司 (近刊), (1994)