同和地区住民の学歴構成は一般的水準と比較して著しく低い。学歴構成上の格差は地区児童・生徒の教育達成水準の著しい低さによって再生産され、同和問題の解決の大きな障壁となっている。地区住民の生活過程で発生する問題に対処するものとして従来より隣保館が設置され、青少年向けに児童館・青少年会館等も設置されている地区も少なくない。本研究ではこれらの施設における教育施策について、1)生涯学習体系への移行、2)同和行政の一般施策への移行、3)「地区住民の自律精神の涵養」という視点から実証的な再評価を、大阪府・鳥取県・福岡県下において観察・インタビューを中心とするフィールドワークによって行った。その結果得られた知見は以下の通りである。1)隣保館の施設・設備、職員配置、事業運営費は必ずしも地区の人口・就労・生活実態に応じたものではない。とりわけ財政規模の小さい市町村において遅滞が目立つ。2)都市型部落の一部を除いて、生涯学習体系への移行を視野に入れた事業展開を試みているところは皆無である。成人教育事業として着付け・書道・茶道などが大部分の隣保館で行われているが、住民の学習ニーズと合致しておらず参加社の減少が続いている。同和地区の学習ニーズに応じた生涯学習事業の展開は、自治体にも隣保館職員にも重要だとは認識されていない。3)青少年向け学習事業は、算盤・習字などの隣保館事業、学校教職員の手による学力補充事業、都市部を中心に子ども会が組織されているところもあるが、地区によるばらつきが大きい。低学力や家庭の教育力の脆弱さを鑑みた事業展開とはなっていない。4)地区住民は学歴・教育達成上の大きな格差に危機感は持っているが、その解決方法については、家庭教育・社会教育・学校教育のいずれのレベルについてもノウハウも情報も持っていない。5)一般の生涯学習(社会教育)施策水準の低さと、同和対策という特別施策の中で行いうる事業の限界が、地区の教育水準の上昇を促す行政施策に必要な質と柔軟性を損なっている。
|