本研究では、カルマンフィルターモデルを経済分析に使うための、統計的推測の理論を確立することを目的としている。実用上、まず解決しなければならないのは、係数が変動するという仮定のチェックのテストである。係数が変動していなければ、従来から推論の方法が確立している回帰モデルが適応できるので、そちらを使うほうがより効率的であるからである。今回の研究では理論上の厳密さよりも実用上の便利さに重点をおいて、変動性のテストの開発をこころみた。 用いた統計量は、ラグランジュ乗数テストの拡張である局所平均最強力(LMMP)テストである。今の問題では、この統計量は標準正規分布にしたがう確率の二次形式の比で表現されるため、厳密にはImhofの方法などの数値積分で分布を評価することは従来から可能であるが、区間の分割数など、技術的な工夫が必要であり、実用上の障害となる。 著者は、非心カイ自乗分布の近似に古くから使われているPatnaik近似がこの統計量の近似に有効ではないかと考えた。この近似は、0以上の値をとる一般の確率分布の近似を、中心カイ自乗分布で行おうというもので、平均と分散を一致させるようにパラメータを決めるという、きわめて単純なものである。しかし、二次形式の行列の固有値の形から、この分布は低い次数のカイ自乗分布で良好な近似が予想される。シミュレーションによって、帰無仮説のもとでの近似の程度、近似分布から求めた臨界点による検出力などを求めたところ、この近似によるテストは実用上の観点からは十分な性能を持っていると思われる。 さらに、パラメーターの変動の標準偏差が小さいという前提のもとでの漸近的な尤度の展開をつかって、非線形回帰モデルにおいてのテストにも拡張を行った。
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