有理函数または超越整函数の複素力学系を考える。すなわち、与えられた函数が定義される領域でその函数の繰り返しによってできる函数族を考えるのである。この時その函数族が正規族となるような近傍を持つ点の集合をファトゥー集合と呼び、そのリーマン球面における補集合をジュリア集合と呼ぶ。 複素力学系の理論とクライン群の理論には類似点が多いことが知られている。ファトゥー集合、ジュリア集合に対応するものはクライン群における通常集合、極限集合である。極限集合の部分集合で剰余極限集合というものがある。これはクライン群の極限集合の構造を知るのに重要なものである。これをまねて、剰余ジュリア集合を定義する。すなわち、ファトゥー集合の成分の境界に含まれないジュリア重合の点の集まりである。拡張的有理函数の力学系において剰余ジュリア集合が空集合となる必要十分条件を与えた。これはファトゥー集合の完全不変成分の存在の特徴付けとなっている。この結果は現在雑誌に投稿中である。 有理函数の力学系を考える。吸引的周期点を含むファトゥー集合の成分の集まりをその周期の直接鉢と呼ぶ。M.Reesは次の問題を提出した。「周期が少なくとも2である吸引的周期の直接鉢で無限連結となるものを含むファトゥー集合を持つ有利函数の例を見つけよ。」また次数2の有理函数に対しては、その様な直接鉢が存在しないことがすでに知られている。これに対して次数3の有理函数でReesの求めたものを実際に構成した。この結果については論文にまとめ、現在投稿準備中である。
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