複素解析的カテゴリーにおける線型偏微分方程式の初期値問題について、初期データとして、交差する確定特異性を持つ関数を与えた場合に、解にどのように特異性が伝わるかを考察した。 まず、平面波分解とリーマン=リュービル積分の複合であるところの「一般化されたFeynman恒等式」を初期データに適用して、解の積分表示を作った。そして、その得られた積分表示に現れる相対サイクルをトムのisotopy定理を用いることによって、連続的変形を行って、解の特異性の位置を求めた。これにより、初期dataが、交差する特異性を持つ場合には、初期データの特異性集合をstratifyしたときの各strataから解に特異性が伝播することが分った。更にファムによる一般化されたピカ-ル=レフシェッツ理論を適用することにより、解が特異性のまわりでどのように振舞うかを記述した。一般的状況の下では、解も確定特異性を持ち、その指数は、初期データの特異性の内、考えているstrataを通る特異性の指数の和に半整数を法として合同であり、さらに、対数項を持つ場合には、解の対数項の次数も求まることが分った。 以上の研究結果は現在投稿中であるが、この研究を通じて分ったことは、「積分表示」の有力性である。そこで、今後の課題として、次のようなことが問題になってくる。多変数関数論における擬凸性についての岡潔の研究方法は積分表示の考察に基づくものであった。このことと、ルレイのコ-シ-問題に関する仕事(その大部分は多変数の積分の考察である)とを考え合せてみると偏微分方程式の解の正則領域の考察が、積分表示を通じて出来る筈であり、その考察が今後の課題である。
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