本研究の当初の目的は高エネルギーでのバリオン数非保存過程を調べることであったが、前年度にO(3)非線形シグマ模型に適応した方法を4次元のSU(2)ゲージ・ヒッグス系に適用し、散乱断面積を10TeV(sphaleron mass)まで求めることが出来た。結論は、低エネルギーではinstantonによる抑制のために観測可能なほどの断面積にならず、高エネルギーではsphalaronが効いて大きくなるという議論があったが、そのような配位を作り出す確率が小さくなり、断面積は低エネルギーの場合と同程度の大きさにしかならないことが示された。 電弱理論におけるバリオン数非保存過程は高温ではenhanceされることが知られているが、これを用いて宇宙のバリオン数を生成する可能性が指摘されている。一般に宇宙のバリオン数を作るには、非平衡・CP非保存・バリオン数非保存過程が必要であるが、電弱理論はその相転移が1次であればこの3条件を満たすことが出来る。我々はmassless two-doublet Higgs modelでの電弱相転移を調べた。この理論は有限温度での有効ポテンシャルを摂動論的に計算した場合に複素数になるという困難がない。摂動論的に有効で、且つHiggs massが実験と矛盾しないという制限の下で調べた限り相転移は1次であることが分かった。更に、バリオン数生成に関係するcritical bubbleの厚さも評価した。 このbubbleでフェルミオンの反射率の差が生成されるバリオン数を評価するのに重要な量であることが知られている。我々は、Dirac方程式を歪曲波ボルン近似で解くことにより、bubble wallの任意のprofileに対してCP位相の1次までの近似で反射率を与える表式を構成した。これに関する論文は現在投稿中である。
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