今年度行った研究の第一はニュートリノ振動に関する現象論である。本研究ではニュートリノに関する等価原理を検証するために、エネルギーの制御が比較的容易な長距離加速器実験におけるニュートリノ振動の観測を提唱し、具体的にどの程度の精度で検証できるかを解析した。解析は距離が約800kmのSOUDAN2の実験の場合と約6000kmのDUMAND計画の場合について行い、それぞれ10^<-14>と10^<-15>の精度で検証しうること明らかになった。さらに、この種の等価原理の破れを仮定する場合、座標系の取り方により重力ポテンシャルの値が変わり結論も変わってしまうという誤解が従来あったが、等価原理の破れが十分小さい場合、地球上での実験では地球のポテンシャルで十分良い近似であることを示し、座標系依存性の問題を解決した。又、一般にニュートリノ振動を引き起こす力を媒介する粒子のスピンを未定とした場合、観測される電荷粒子のエネルギースペクトラムの形からスピンを同定できることも示した。 今年度行った研究の二番目はクォーク・レプトンの質量に関する研究である。素粒子の標準模型ではクォーク・レプトンの質量の多様性は湯川結合定数の多様性によって現象論的に説明されているが、本研究では湯川結合定数は普遍にして何種類ものヒッグス粒子を導入し、そのヒッグス粒子の真空期待値の多様性からフェルミオンの質量を導出しようと試みた。従来はヒッグス粒子のポテンシャルが非常に複雑であるために解析が困難であったが、南部一ジョナラシニオ型模型を仮定して全ヒッグス粒子が複合粒子であるとすると、ポテンシャルの形が強い制約を受けて解析が簡単になることが明らかになった。現在この方法によりフェルミオンの質量ならびにフレーバーを変化させる中性カレント等の現象論に関する解析が進行中である。
|