気候モデルを用いて現実的な海洋循環それに伴う水塊分布を再現することはまだ難しい。これはシミュレーション・モデルが多くの不確定要素を含むからである。本研究では不確定要素のうち、特に重要と思われる次の3点がモデルの結果に与える効果を調べた。 ・鉛直拡散係数を下層で大きくする。 ・水平拡散係数を下層で小さくする。 ・地中海からの高塩分水の流出を与える。 いずれも観測からその重要性が示唆されているが、モデルはあまり考察されていなかったものである。 それらの効果を見るため、よく用いられてきた実験と上の要素をそれぞれ独立に変化させた実験とを行い、相互比較を行った。比較の際のポイントは水塊の特徴がどれだけ観測事実と合うかにおいた。水温・塩分だけではよくわからないので、仮想的な海水年齢の分布を計算し、その補助とした。 これにより以下の知見を得た。 (1)これまで再現が難しいとされてきた南極中層水の分布は水平拡散係数を下層で小さくとることにより再現できる。中層水は亜熱帯循環東部を回りこむようにして中緯度に移動するため、これまでのモデルのように水平拡散を取った場合、亜熱帯循環の中央水の混合により中層水の特性が失なわれていたと考えられる。 (2)深層循環の強さは鉛直拡散係数に依存する。また、太平洋に侵入する北大西洋起源の深層水は南極周極流域で強い水平拡散による混合を受ける。従って、太平洋の深層水の特性は、大きい鉛直拡散または小さな水平拡散の場合には高塩になり、両者の効果は同等である。しかし、年齢分布を合わせて考えると、現実的な年齢を再現するには鉛直拡散を大きくすべきあることがわかる。 (3)北大西洋深層水の現実的な分布は、拡散係数や地中海水を変化させても得ることはできなかった。従って、別の要素、例えば季節変動や海面混合層など効果を考慮する必要があると思われる。 なお、以上の成果に関して、現在、公表論文としてとりまとめ中である。
|