火星の衛星フォボス、ダイモスへの微小隕石の衝突で生成されるダストの火星周囲の運動を求めることが本研究のテーマである。目的は、今まで無視されていた効果も取り入れて粒子の運動の数値シミュレーションを行い、期待されるダストの分布を求めて、将来のダスト計測の指針にすることである。本年度の成果として、太陽放射圧の下での火星の軌道離心率を考慮した計算を行った。はじめにヒル近似に基づいた計算を行ったが、惑星本体の軌道を近似的に計算することになっていたため、火星周囲のダストの運動を正確に記述することはできなかった。そのため、近似を、火星とダストの間の距離が太陽と火星の距離に比べて十分小さいという近似にとどめて、惑星とともに回転する座標系の上で、ダストの運動を数値積分した。この過程では、神戸大学の研究者(向井正、石元裕史)との議論が非常に有益であった。その結果、ダストの火星周囲の軌道要素の変動が、はじめにダストが放出されるときの火星の軌道上の位置に依存することが明らかになった。大陽からの距離が遠いときは放射圧が弱く、ダストの離心率、軌道傾斜角の変動は遅くなる一方、近いときは早くなるという結果が得られた。さらに、衛星表面がレゴリス状の場合、ダストの再衝突が、新たなダストを放出して、ダストの量が10-100倍に増大する可能性があることもわかった。 また、日本の火星探査機PLANET-Bにダスト計測機が搭載されることが昨年11月に正式に決定された。私は日本側の研究代表者として、今後は、計算されたダストの分布からダスト計測機での観測量を予測して、これを将来のダスト計測機の運用に利用したい。
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