小型甲殻類の一種である介形虫の石灰質殻の酸素同位体比に温度依存性のあることを世界で初めて定量的に実証し、古水温計を作成することに成功した。成果は現在投稿論文として準備中である。研究結果は主として次の2点にまとめられる。ひとつは、殻形成時の水温が記録されている油壷湾現生標本を用い、殻の酸素同位体比を精密に測定した結果、y(酸素同位体比)=3.3585-0.24007x(水温)という温度と同位体比の関係式を導いた。これは、もし仮に介形虫殻の同位体測定値を従来の方解石温度スケールにあてはめて計算したら、その水温が殻形成時の実際の水温より約3℃高くなってしまう、ということを意味する。2点目として、油壷湾の自然試料の中には導かれた比例式に乗らない測定値が例外的に認められ、この原因を究明するため室内飼育による実験を行った。本実験では環境ノイズを最小限におさえるべく水の同位体比、水温をコントロールしたインキュベータ内(本科研費購入備品:CR-32型)で殻形成した個体の同位体測定を試みた。最初の実験では溶存酸素量を定量しなかったことで測定値がばらつき、2回目以降の実験は、金沢大学の同位体分析装置が大場教授の移動に伴い北海道大学に移管したため、最終段階の測定までいたらなかった。しかし、従来まったく実証されることなく利用されてきた介形虫殻の温度依存性に関して、この一年間で介形虫用古水温計の作成まで至ったことは、古水温推定材料としての介形虫の重要性を一段と高め、特に湖成層の古環境復元において介形虫の利用がますます発展する基盤を築いたといえる。
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