まず、種々の塩基を用いたコバロキシム錯体を合成し、単結晶を作製した。用いた塩基には、不斉炭素をもつ、(R)-2-フェニルグリシノール、SEC-ブチルアミンと不斉炭素を持たないアキラルな塩基であるピロリジン、4-メチルピリジンを用いた。それぞれの結晶についての結晶構造解析と光反応性を調べた。X線結晶構造解析の結果から、(R)-2-フェニルグリシノール、SEC-ブチルアミンの結晶では、反応基であるbeta-シアノエチル基は、コバロキシム平面に対して、垂直に伸びたコンホメーションを持つち、(R)-2-フェニルグリシノールと4-メチルピリジンは水平なコンホメーションをもつことがわかった。また、(R)-2-フェニルグリシノール、SEC-ブチルアミン、ピロリジンはキラルな空間群の結晶となり、4-メチルピリジンはアキラルな結晶であった。beta-シアノエチル基からalpha-シアノエチル基に異性化する際、垂直なコンホメーションからの異性化は原子の動きがかなり大きいため、前者の結晶はいずれも反応の進行とともに結晶が壊れていってしまった。しかし、微結晶状態における光異性化反応速度は得ることができた。すなわち、SEC-ブチルアミン錯体、ピロリジン錯体においては、反応収率は悪いが、高い不斉収率が得られた。これは反応基のもつ不斉な結晶場が要因となって不斉反応が成功したと考えられる。また、(R)-2-フェニルグリシノール錯体、4-メチルピリジン錯体では、反応基が水平はコンホメーションをもち、かつ反応空間の体積も十分な大きさを持つため、高い反応収率、高い不斉収率が得られた。特に、4-メチルピリジン錯体結晶においては結晶格子を保ったままの結晶相不斉反応に成功し、光照射前後の構造解析結果から実際に分子サイトでは絶対不斉反応が成功したことを分子レベルで証明することができた。
|