本研究では、アルゴン原子等小さな分子クラスターの融解現象を幾つかの新しい視点から整理し、融解現象の本質を突き止めると同時に、このような凝縮系独特の動的過程を見通し良く記述する方法論を開発する事を目的としていた。そしてこのための研究手段として、振動や回転で原子核の運動を記述する従来の考え方を止め、電子状態理論で広く成功をおさめている平均場近似に基づく"軌道"による概念を原子核の運動に持ち込み、このような方法で凝縮系の動的過程を記述する可能性を検討した。このような考え方を推し進めるに当った背景には、分子クラスター等の凝縮系では運動の自由度が著しく多く、その結果孤立系の原子分子の運動や反応に通常使われている振動や回転による解析があまり見通しの良い結果を与えないと言う経験事実があった。 しかしながら軌道と言う概念による記述は、双極子-(誘起)双極子相互作用のように2体の相互作用ポテンシャルの和で形成されている分子クラスターには、中心力場の中を割合に自由に運動している電子の場合とは違い本質的にかなり難しい問題設定であり、実際の研究内容は当初の研究目的にはほど遠い基礎データの収拾と解析に終始した。 その結果解った事は、分子クラスターの動的過程の理解には(1)座標空間だけでなく位相空間による解析が不可欠な事、(2)さらにはダイナミカルボトルネックの存在を考えに入れる必要のある事、(3)通常の化学反応理論の前提となっているRRKM的な描像が成り立たない事等が解った。(これらの内容の内容についての論文は現在準備中)
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