研究概要 |
Rh^<II>,Pt^<III>に代表されるd^7系の白金族元素は,硫酸イオン,ピロ亜リン酸イオン,ヒドロキシピリジン,ピリジンチオールなど架橋配位子中の配位原子間の距離(bite distance)が2.3〜2.8A程度の適当な配位子を用いると,酢酸銅型構造を取り金属間結合と軸配位子を有する二核錯体が得られることが知られている.本研究は,白金族元素をMoO_4^<2->,WO_4^<2->,MoS_4^<2->,WS_4^<2->などの金属酸化物イオンや金属硫化物イオンが架橋した新規酢酸銅型多核錯体を合成し,架橋配位子に金属イオンを含むことにより,どのような新しい酸化還元特性や機能が現れるかを探ることを目的としてスタートした.しかし,研究を進めて行く途中,硫酸架橋二核白金錯体のようにすべての架橋配位子がある程度置換し易い錯体では,MoO_4^<2->を共存させるとヘテロポリ酸を形成することがわかった.そこで,すべての配位座に溶媒が配位した"裸の"白金イオンが生成しないように一部の配位座を置換不活性な配位子(terpyridine;trpyと略)でブロックした白金錯体を原料に用いて種々の反応を試み,以下のような知見を得た. [Pt(trpy)Cl]Cl-2H_2Oの水溶液にAgNO_3を加えて数時間撹拌し,析出したAgClをろ別後,酢酸またはN,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを加え数分撹拌した.前者はそのまま濃縮し,後者はNH_4PF_6を加えて生成した赤色沈殿をアセトニトリルから再結晶してそれぞれ結晶性の錯体1,2を得た.X線構造解析により,1は[Pt(trpy)(CH_3COO)](NO_3)の組成を持ち,酢酸イオンが単座で配位した単核錯体であることが解った.結晶中では2つの錯陽イオンのPt…Pt距離が3.27Aまで近付いており,Pt…Pt間に何らかの相互作用があるものと思われる.また,2はPt^<II>(trpy)ユニットをジチオカルバミン酸が架橋した二核錯体[Pt_2(mu-Et_2NCS_2)(trpy)_2](PF_6_3であることが明らかになった.Pt…Pt距離は3.081(3)Aで平均のPt-S距離,Pt-N距離はそれぞれ2.31A,2.00Aである.可視紫外吸収スペクトルには500nm付近に弱い吸収が観測されるが,これはtrpyが配位した他の1架橋型二核錯体と同様にtrpyが配位したPt…Pt間の相互作用によるものと思われる.
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