精子プロテアソームは鞭毛運動のATP濃度依存的制御に関与していると考えられる。シロサケ精子のプロテアソームに対する抗体を用いた研究から、プロテアソームは精子鞭毛に局在していることを以前明らかにした。本年度は、プロテアソームの選択的抽出法、および免疫電顕法を用いて、精子内においてプロテアソームが結合している微細構造について研究を行った。まず、精子除膜モデルをホモジナイズして得られた軸糸と、単離した鞭毛を除膜して得られた軸糸のプロテアソーム活性を比較したところ、前者にその活性が強く検出されたにもかかわらず、後者にはほとんどその活性はなかった。電子顕微鏡により両者の軸糸構造を比較したところ、前者には周辺ダブレット微小管から細胞膜へ向かって伸びる突起構造が観察された。プロテアソームに特異的に反応する抗体を用いて、金コロイド二次抗体による免疫電顕観察をおこなったところ、プロテアソームは確かにこの突起構造に存在することがわかった。以上の結果から、プロテアソームは軸糸と細胞膜を連結する構造をATP依存的に切断することにより、精子の運動開始を可能にしていることが示唆された。今後は、プロテアソームが分解するタンパク質(内在性基質)を同定することが先決であると思われる。このことにより、真核細胞一般に通ずるプロテアソームの作用機序が解明できる可能性がある。
|