原生霊長類7種(新世界ザル3種、旧世界ザル1種、類人猿3種)の上腕骨頭の骨計測・非計測観察及び3次元計測を行い、ロコモーション様式と形態特徴の関連について検討を行った。その結果、懸垂、腕渡り型の運動に固有、また木登り型の運動に固有な関節形状のパターンが明らかになった。機能面から見ると、懸垂様行動は挙上した上腕の回旋の自由度を、また木登り様行動は矢状面内てせの前肢の屈伸域、とりわけ伸展域の拡大に関係している。この結果については第47回日本人類学会、民族学会連合大会において報告した。さらに、中新世類人猿(ケニアピテクス、プロコンスル)と原世霊長類の大腿骨近位部の形態比較を行った。中新世類人猿の大腿骨の形態特徴は発達した殿筋粗面、小殿筋付着部の外側への張り出し、深い転子窩、頚部後面の小結節、比較的長く、頚体角の大きな頚部、骨頭よりも低い大転子、球状に近い骨頭関節面、内側よりを向き大きめの小転子などがある。これらの特徴から大殿筋、小殿筋、外閉鎖筋など股関節の回旋、伸展に関する筋肉が発達していたこと、また股関節構造がそうした運動の自由度を妨げないものであることが推測された。チンパンジーの垂直木登りにおいて股関節の伸展と同時に大腿の内旋がおこることから、この機能形態はこれら化石類人猿のロコモーションに垂直木登り様の運動が比較的多く含まれていた可能性を示唆する。また、ケニアピテクスはプロコンスルに比べ頚部が短い反面、上記の筋付着部がより発達していることから、この2属の霊長類の間で異なった行動様式がとられていた可能性がある。この結果については第99回日本解剖学会総会において報告予定である。
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