本研究では有機EL用薄膜の高品質化を目的として、イオン化蒸着法による有機薄膜の形成を試みた。ここで扱う有機ELは、ホール輸送層と電子輸送性発光層を積層し、界面での電荷注入により発光を得るものである。そこでまず発光層としてイオン化蒸着法によりアルミニウムキノリノール(Alq)薄膜を形成し、次に発光層としてポリビニルカルバゾール(PVCz)を用いたEL素子を試作した。本研究で得られた結果は次の通りである。 (1)イオン化蒸着によるAlq薄膜の形成 蒸着イオンの加速エネルギーを変化させてAlq薄膜を作製し、その基礎的膜物性を評価した。X線光電子分光分析の結果、300V程度のイオン加速電圧を印加することによって膜中の不純物に起因すると考えられる酸素が減少した。さらにフォトルミネセンス測定では、不純物酸素の減少に伴って蛍光強度の増大が観察された。 (2)EL素子の試作 ITOガラス基板上に50nm厚のPVCz膜をスピンコートし、その上にイオン化蒸着によって50nm厚のAlq膜を蒸着し、さらにアルミニウムまたはマグネシウム電極を真空蒸着して素子を作製した。この素子は約10Vの印加電圧で発光を開始し、20V・10mA/cm^2の動作条件で1200cd/m^2の輝度が得られた。Alq蒸着のイオン加速電圧を印加すると同一動作電圧下での発光輝度が増大したが、加速電圧が高すぎると素子を流れる漏れ電流が増大し、効率は低下する蛍光が観察された。 このようにイオン化蒸着法を用いると蒸着条件によって膜物性を制御できるため、有機EL素子の特性を改善できる可能性がある。
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