研究概要 |
本研究では、(1)不規則因子が時間的に変動する確率過程ではなく,空間的に変動する確率場の形で含まれる,(2)対象となる従属変数が確率場の位置を指定する変数を兼ねている,という特殊な微分方程式を対象とし,解の構成法に関する数学的考察を行うと共に構造信頼性工学において重要となる不規則き裂進展問題への適用を試みた。得られた主な結果は以下の通りである。 1.まず,従来の確率過程論で用いられてきた初到達時刻の考え方を用いることにより,(従属変数がスカラー量であることを前提とした上で)解の数学的構成法を新しく提案した。この解は不規則因子が除外された場合には通常の(決定論的な)常微分法定式の解と一致するので,物理的に無理がないものである。 2.いわゆる拡散近似の考え方を用いて,方程式中に含まれる確率場積分変換した新たな確率場をガウス近似し,この近似の下で解過程の推移確率分布を導出する手法を提案した。 3.この手法を金属材料の疲労き裂の不規則進展問題に適用し,従来用いられてきた通常の確率微分方程式(微分方程式中に不規則因子が確率過程の形で含まれるもの)による数学的モデル化の手法との比較検討を行った。数値計算の結果,推定される残存寿命分布は従来の結果よりやや長寿命側になることがわかった。 これらの結果に加えて,本研究で対象としたタイプの確率微分方程式が他のどのような現象に適用し得るかについても検討を行い,例えば地震波の空間的な不規則伝播や,不規則電磁場中の荷電粒子の運動等も同じ様な形の微分方程式で記述し得ることが明らかとなった。上述の疲労き裂の不規則進展問題と併せて,本研究で構築した解析手法が信頼性工学等の実用的分野で重要な役割を果たし得ることを明らかとした店は極めて重要であると考えられる。
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