研究概要 |
空気中,鉄同士の摩擦によって生じる鉄酸化物は一般に不定比化合物となることが多い.そしてそのような鉄酸化物は二酸化炭素をメタンに変える触媒として働く.これまでの研究から摩擦中に磁場を印加すると鉄不定比酸化物の生成が促進されることがわかっている.そこで本研究では外部磁場を印加し,表面に活性な物質を生成することによって鉄の摩擦触媒能が増大することを確認することを目的とした. 摩擦触媒実験装置に組み込まれているピン・オン・ディスク型摩擦試験機のピン試片としてAgとS45C鋼を,ディスク試片としてS45C鋼を用意する.磁場は中心穴が空いている平板希土類磁石をディスクに張り付けて印加した.10^<-4>Pa程度の二酸化炭素を導入した後摩擦を開始し,質量分析計で装置内の気体の種類と量の摩擦による変化を観察した. S45C鋼同士の摩擦は二酸化炭素からメタンを作る反応において摩擦触媒活性を有した.また,1)磁場なしシビア摩耗,2)磁場ありシビア摩耗,3)磁場ありマイルド磨耗における,メタンをあらわすCH3^+イオン電流値を比較すると,磁場中でのマイルド摩耗はシビア摩耗に較べて高い活性を持つこと,一方シビヤ磨耗においては磁場の効果はないことが確認された.メタンの炭素は二酸化炭素からもたらされると考え,各摩擦速度における二酸化炭素の圧力減少量とメタンの圧力増加量の相関をとると,磁場の有無,磨耗形態の違いにかかわらず,各種状態における圧力変動量は同じ直線上に乗った.そこから二酸化炭素からメタンへの転換率は2.5%と計算された.シビア摩耗においては,磁場の有無によってはメタンの発生量がかわらなかったことから,磁場は反応に直接関与しているわけではないといえる.むしろ磁場はマイルド摩耗の成立を促進することで反応に寄与する.ただし本実験のような真空に近い条件では,摩擦面は磨耗によってシビア摩耗面に戻り反応の活性が低くなる.反応の持続には酸化物の存続が重要であることが理解された. またS45C鋼のマイルド摩耗面とAgの磁場中での摩擦でも,二酸化炭素のメタンへの還元反応が生じた.その転換率や,水素に発生量に対するメタンの発生量の比はS45C鋼同士のシビア,マイルド摩耗面よりも高いことが知られた.
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