先に著者が開発した分子動力学シミュレーションのための外部境界条件である周期殻境界条件を、非剛体分子モデル系(レナード・ショーンズ流体)に適用し、その有効性を検討した。2次元円柱まわりの流れのシミュレーションにより、従来の境界条件である周期境界条件を用いた場合、円柱側面領域において一様流方向の速度成分が非常に強調された速度分布になり、また円柱後方部では速度がかなり大きく、円柱背後の一対の渦も非常につぶれたものになる。この原因は明らかに、周期境界条件が単体の円柱まわりの流れをシミュレートしているのではなく、円柱群内の流れをシミュレートしてるのにほかならない。一方、本境界条件の場合には、円柱側面方向の境界面からの流体の流出があり、また円柱背後の渦の形成状態に関しても、ナビエ・ストークス方程式の解と定性的およびある程度定量的にもよい一致を示している。さらに、本境界条件の結果は、シミュレーション領域を非常に小さく取らなければ、領域の大きさへの依存性があまり見られないことがわかった。以上のように、従来の境界条件が流れ場を大きく歪ませるのとは対照的に、本境界条件は剛体分子モデル系と同様に非剛体分子モデル系に対しても、流れ場をあまり歪ませず、非常に有効であることが明らかとなった。 以上の研究により、本周期殻境界条件が、剛体分子モデル系、非剛体分子モデル系、定常流れ、衝撃波を伴う高速流れ、に対して有効であることが明らかとなったので、今後は分子動力学法の工学的応用に際して最も重要な非定常流れの問題への適用を計る予定である。具体的には、円柱背後に生じるカルマン渦列を、本境界条件を適用した分子動力学シミュレーションによって、正確に捕獲できるかどうかを検討する計画である。
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