当該年度は、まず第一に可視化および画像処理を援用した自然対流境界層の乱流遷移に関する実験を行い、速度場および温度場の観点から熱流動構造を把握した。その結果、遷移域の壁面近傍に大きなスケールの低温度馬蹄形流体運動が存在し、それが自然対流の熱伝達に重要な役割を果たしていることを明らかにした。この流体運動は、三次元的に不安定な構造を有しているが、繰り返し実験に基づいた統計処理の結果、伝熱面熱流束やその発生位置に依存しないことも併せて明らかにした。馬蹄形流体運動を境界層の比較的早い時期から創始することで、壁面全体の伝熱促進が図れるものと考えられる。具体的手法については、さらに時間を要するため、現在の検討課題である。次に層流や遷移域の熱伝達率よりもさらに高い熱伝達率を有する乱流域の自然対流についても併せて伝熱促進を試みた。突起やステップを乱流境界層中に設置し、それが熱や流れに与える様子を観察・検討した。その結果、これらの障害物を導入することで5割ほど高い熱伝達率を達成することができた。自然対流で伝熱促進を実施する場合、障害物による摩擦損失を考慮に入れる必要がないことに利点がある。また流動構造の観察から伝悦促進の原因を検討した結果、障害物周りに有起される流れが周囲の低温度流体を積極的に壁面近傍に巻き込むことで、より多くの熱を輸送していることが明らかになった。自然対流が利用できる体系であれば、それを積極的に有効利用する必要がある。以上の結果は、次年度論文にまとめる予定である。
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