超伝導線は作製時や保管時に中心軸のうねりや巻き癖などの寸法不整を不可避的に有するため、ある張力を掛けて巻線しコイルを作製した場合でも、寸法不整のために局所的に層間の接触力が減少し、その結果導線の固定が悪化し、この部分で電磁力により導線が動いたりコイル剛性が低下する可能性がある。本研究は、超伝導コイルの不安定性要因の一つである導線の動きと、寸法不整による導体支持力の局所的低下の関係を確率論を用いて理論的に検討し、実験結果と比較したものである。 理論的計算においては、超伝導線に上下からステンレス製平板で圧縮力を作用させ、導線を固定するモデルを考えた。そして、ステンレス平板から導線に均一な圧縮力を作用させた場合に、導線の寸法不整のために、平板と導線の接触力のばらつきの程度を計算した。本計算では、導線の寸法不整を正規分布と仮定し、また導線材料の歪み特性を非線形領域まで考慮している。さらに、電磁力に対し導線と平板間の摩擦力が下まわり、導線が動き、この時の摩擦発熱で導線が常伝導転移するか否かも併せて計算した。その結果、ステンレス平板による支持力が平均値としては十分に大きい場合でも、局所的には不足し、導線の寸法不整が安定性に大きく影響することが示された。 次に、実験結果と本理論計算の比較を行った。検討した実験は、米国ブルックヘブン国立研究所において行われた超伝導線のトレーニング実験であり、理論計算におけるモデルとほぼ同様の状態で実験が行われている。実験においては、ステンレス平板による導体圧縮力を3種類、超伝導線の銅比を2種類用いているが、どの場合においても、正規分布と仮定した導線の寸法不整の標準偏差を25mumとすれば、実験におけるトレーニング特性と理論計算はほぼ一致する結果が得られた。
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