研究概要 |
生物が有する化学感覚の優れた特徴として,量的な高感度性と質的な高分解能性が挙げられる.高感度性は生体膜において刺激物質が引き起こす微小な領域の表面状態の変化を神経の興奮インパルスへと変換でき,質的な高分解能性は応答の時間的ダイナミクスを情報として用いるためであることが示唆されている.本研究の目的は,光刺激応答を利用した高感度受容素子の開発と,その応答ダイナミクスによる情報処理を行うことである. 本研究においては膜の表面状態を計測することを目的とするため,測定手段として光刺激応答を用いた.光起電性を有する材料を用いることにより,微小な光ビームにより表面の微小領域のプロフィールを得ることができる.本研究では化学的安定性,基礎データの蓄積を考慮して,有機半導体である金属フタロシアニンを用いた.有機半導体はヨウ素をアクセプタとしてドープすることにより導電性を制御でき,光刺激応答を電気的に検出可能であった.本研究ではこのような光機能性材料を用い,水溶液中での表面状態を計測した.その際,機能性物質として脂質を膜に混入し,表面での脂質と刺激物質との相互作用が光機能性材料の特性として反映された.水溶液中での光応答は微小であるため,計測手段として光交流測定を行い,さらに,応答のダイナミクスに内在する化学物質の種類あるいは質に関する情報をコンピュータで波形解析を行うことにより抽出した.その結果,光機能性有機薄膜の光応答により水溶液の電解質,さらにはエタノールやしょ糖といった非電解質を高い感度で検出できることが分かった.非電解質はこれまで膜電位といった量では高感度検出は不可能で,この結果により光ビームにより高感度に検出可能であることが確認できた.
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