研究概要 |
高周波反応性スパッタ法によって作製したFe_2O_3-BaTiO_3系磁性酸化物薄膜の結晶構造と磁気特性を調べた。ここで試料は,作製後にゆるやかな熱処理(1℃/minで昇温し,所定の熱処理温度で一定時間保持した後,徐冷する。)を施している。磁化の組成依存性と熱処理温度依存性を調べた結果,最大4piMs=1.72KGに達する飽和磁化を得たが,X戦回折の結果から強磁性を発現する結晶相を同定することはできなかった。 Fe_2O_3-BaTiO_3系膜では,その強磁性の起源が,大気中熱処理後にもかかわらず膜中に存在するアモルファス相にあることが,電子線回折等によって明らかになっておりBaTiO_3系膜の場合も同様の強磁性アモルファス相が存在する可能性がある。 一方,加熱した電気炉内に試料を素早く挿入し,一定時間経過した後に大気中で急冷する急速熱処理を施したところ,ゆるやかな熱処理の場合と同程度の磁化が現れたが,結晶の存在を示す回折線は認められなかった。これは,急速な熱処理によって,アモルファス強磁性相中の非磁性結晶の核形成が妨げられた結果と考えられる。 以上の結果により,BaTiO_3系膜においてもアモルファス強磁性相が存在することが確認された。また,非磁性結晶相を含まない強磁性アモルファス薄膜の電気的特性等の測定が可能になった。 今後は,透過型電顕を用いた観察やXPSスペクトルの測定に加えてFe原子の回りの局所的原子配列を解明するためEXAFSの測定と解析を行い,強磁性の発現機構の解明を進展させる必要がある。
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