プロセスシステムの特徴には、1)ダイナミクスが熱伝導・拡散などの複雑な過程により生じるため厳密な数式モデルの構築が困難なこと、そして2)物質・信号の伝達に無視できない遅れがあること、が挙げられる。本研究では、このようなプロセス系特有の性質を念頭におき、むだ時間の存在の無視できない制御対象に対して、数式モデルと実際の対象の間に存在する差異にかかわらず所望の性能を発揮するロバスト制御系の設計法の開発を試みた。そして、入力むだ時間系のロバスト制御法に関して以下の結果を得た。 1.ロバスト制御法の開発:加法的・乗法的摂動に対するロバスト安定化可能性の必要十分条件を導き、ロバスト安定化則が集中定数系の設計と同程度の計算で構成できることを明らかにした。また、導いた制御則が予測制御系になることを示し、微分ゲーム論的なアプローチにより考察を加えた。 2.むだ時間の値と制御性能の関係:プラントの有するむだ時間の値と達成し得るロバスト安定化可能性の関係について考察し、むだ時間の増加に伴い、ロバスト安定余有が指数関数的に減少することを示した。 3.実プラントのデータを用いた制御系設計:蒸溜プロセスのプラントデータを基に、ロバスト制御系の設計を行った。そして、得られた設計法を用いると、Pade近似を施した集中定数モデルに基づいて設計した場合に比べ、良好な制御性能が得られることが分かった。また、本研究で導いた制御法が制御系の感度の調整にはあまり有効でないことも確認された。 上記の研究により、入力むだ時間系におけるロバスト制御法、むだ時間とロバスト安定性の関係が明らかになった。現在これらの成果を発展させ、むだ時間系のH^∞制御法に関する研究を継続している。
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