下水に流入する汚濁の代表として、また、環境試料の代表として、し尿中における宿主菌および大腸菌ファージ(RNAファージとDNAファージ)の濃度の調査を行った。同時に、し尿中の宿主菌、大腸菌ファージの環境中での動態を模して、定温培養による濃度変化の実験を行った。 調査を行ったし尿におけるRNAファージ濃度は、諸文献に見られる値(0〜10[PFU・mL^<-1>])より高い場合があり、0〜10^4[PFU・mL^<-1>]であった。しかし、処理場流入下水における相対的に高い濃度のRNAファージの濃度のすべてが糞便由来であるとするにはまだ不十分な値であった。 RNAファージの増殖が、DNAファージに比べ、し尿に含まれている物質により制限されている可能性があるため、大腸菌ファージ基準株(RNAファージとしてQbeta、DNAファージとしてT4)の検出効率に及ぼすし尿成分の影響を調べた。その結果、し尿成分はDNAファージの検出効率に影響を及ぼさないが、RNAファージの検出効率を下げることがわかった。よって、RNA分解酵素と同様な役割を果たす物質が糞便中に存在し、都市環境中におけるRNAファージの生態に大きく関わっていることが明らかになった。 また、糞便中の物質によるRNAファージの検出効率に影響する糞便中の阻害物質が、RNA分解酵素としてどの程度になるか、実験および計算を行った。その結果、調査したし尿中の阻害物質は、1〜10mug/mLのRNA分解酵素を含んでいる試料と同程度であることがわかった。 以上より、都市下水におけるRNAファージの増殖に、し尿成分が大きく影響していることは明らかで、排出後希釈されることによって増殖する可能性が出てくると考えられる。RNAファージを病原ウイルスの指標としての利用する際に、そのような阻害物質は、見逃すことができない重要な因子であると考えられる。
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