本年度は当研究最初の年として、以下のような作業と調査をおこなった。 1.まず、阪神間全域に関わることとして、現在の西宮市から明石市周辺までの国土地理院発行旧版地図(明治43年以降)105枚の比較検討により、阪神間の市街地拡張プロセスを追跡した。また過去の研究文献を参照し、主に明治末から昭和初年頃に建てられた大規模な邸宅群の歴史を確認した。 2.1.の基礎的作業および現地探索の結果、現在の阪神間住宅地の良好な環境を形成した要因としては、第二次大戦前の民間資本による1.の建物以外に戦後の公共中規模戸建て住宅郡が挙げられることに注目し、さらに以下のような局所的作業をおこなった。 1)阪急御影駅北側の「鴨子ケ原」地区という、昭和30年代初めに中流サラリーマンを対象とした典型的郊外住宅地として兵庫県によって開発・分譲されたエリアを取り上げ、そこがなぜ現在のような「高級」住宅地へと熟成したのか、その要因を探ろうとした。 2)そのために、県によるR.C建売り・木造建売り・更地という分譲形式の違い毎に住民へのヒアリングをおこない、現在の安易なひな壇開発とは違う自然地形を活かした当時の開発手法や、いわゆる「モダンリビング」を軸にした生活様式への指向、住民の間に発生した町内会的コミュニティ、近くにある病院や美術館等のインフラ、画家等の文化人の存在などが何層かのネットワークを形成し、それがこの地域の魅力を形成していった様子を調査した。また、マンション化が進むこの地の写真も多く撮影した。 今後はさらに対象領域を広げ、近代社会特有の「郊外」をどう計画すべきか、という問題の考察へとつないでいきたいと考えている。
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