圧電応答法を電極表面の微小応力変化測定に適用し、電極表面状態変化の解析を試みた。 1."電気化学反応における圧電応答信号測定系の確立"では、従来の電気化学セルを改良し、電極表面以外の部分が溶液に接することのないよう工夫され、電極裏面の被覆材による溶液汚染の影響を除去することができた。また、デジタル式ポテンショスタットを用い、新しいシステムを構築することで、精度、感度の良好な測定が可能となった。 2."Au電極上へのAgのUPDに関する研究"では、SO_4^<2->およびClO_4^-イオンを含む溶液中でAgのUPD挙動を調べた。ClO_4^-イオン存在下に比べ二つのゼロ電荷電位が、それぞれシフト(卑側の電位は卑に、貴側の電位は貴に)し、ClO_4^-イオンのAuに対する吸着がSO_4^<2->イオンの吸着より弱いことがわかった。また、UPD現象に対して溶液中のアニオン吸着の影響が大きいことが示された。 3."AgのUPDにおけるヨウ化物イオン吸着の影響"では、あらかじめヨウ化物イオンを吸着させたAu電極上でのAgのUPD挙動を検討した。サイクリックボルタモグラムではAgのUPDによる電流は観測されるが、圧電応答信号の変化が見られなかったことから、Au電極上に吸着したヨウ化物イオンはAgのUPDの際に容易に脱離せず、Agの析出は起こるものの表面電荷の符号は変化しないことがわかった。これらの結果より、従来の電気化学測定では得られなかった表面状態の変化を追跡することができ、貴金属上のアニオンの吸着およびUPD機構に関する詳細な情報を得ることができた。さらに、微小な電極表面状態変化および表面電荷の解析ができるため、酸化皮膜形成(不働態化、アノード酸化)など幅広い電気化学反応系における圧電応答法の適用の可能性が示唆された。
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