ガラスの相分離を利用して作製される多孔質ガラスは、他の多孔体材料と比較して、細孔径分布がシャープであること、無機材料であるため高温、高圧下での使用が可能であること、化学耐久性に優れ微生物にも侵されないことなどの特長を持っていることから、高温、高圧下でのガスおよび液体の分離膜や酵素および触媒の担体などへの応用が考えられている。しかし、多孔質ガラス作製の基本プロセスであるガラスの相分離については、不明な点が多いのが現状である。 本研究では、銅の熱処理に利用されているTTT(時間-温度-変態)図をガラスの熱処理に適用し、ガラスの相分離および結晶化の過程を明らかにした。また、TTT図を基に、分相ガラスから得られる多孔質ガラスの細孔構造や耐アルカリ性に及ぼすガラス組成(添加成分)や熱処理条件の影響について検討した。具体的には以下の点について検討した。 1.多孔質ガラス作製の際の基本系であるSiO_2-B_2O_3-Na_2O系(ホウケイ酸塩系ガラス)、多孔質ガラスの耐アルカリ性の向上を目的としたSiO_2-B_2O_3-Na_2O-ZrO_2系およびSiO_2-B_2O_3-Na_2O-CaO-ZrO_2系のTTT図を作製し、ガラスの相分離および結晶化の過程を明らかにした。また、TTT図を基に、熱処理時間を考慮した分相領域を組成と温度の二元状態図で表した。 2.先に作成したTTT図を基に多孔質ガラスを作製し、多孔質ガラスの細孔構造に及ぼすガラス組成(添加成分)や熱処理条件の影響について検討した。特に、SiO_2-B_2O_3-Na_2O-CaO-ZrO_2系については、CaOおよびZrO_2の添加量が多孔質ガラスの細孔構造や耐アルカリ性(ZrO_2の残存量)に及ぼす影響について詳細に検討した。 3.これらの状態図は、多孔質ガラスの開発のみならず、ガラスの材料設計における基礎的指針として重要であると考えられるため、今後も種々のガラス形成系についてこれらの状態図の作成を行っていく予定である。
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