窒化チタン(TiN)は高融点、高硬度で、耐酸化性、耐食性が優れ、電気的にも良導体であるので、前者の性質を利用した高速度鋼などの工具の被覆材料、後者の性質を利用した超LSIの低抵抗電極、配線材料としての応用が期待されている。この様な目的に用いるTiNのもっとも有効な合成法としてCVD法がある。CVD法によるTiN合成は最近研究されているが、反応器内の複雑な移動過程、気相の中間体の拡散や膜成長表面での化学反応過程などを総合的に考慮し、反応工学的に成膜現象を論じた研究はいまだに存在しない。そこで本研究では、1)成膜メカニズムのモデル化 2)成膜種の同定を行ない、CVD法による窒化チタン膜及び粉の合成に指針を与えることを目的に研究を進めた。 まず、窒化チタン合成はTiCl3とNH3を予混合部で混合させAdductを作り、そのAdductを反応部で反応させTiN膜を作成する。実験条件は、予混合部の温度を460℃、反応器温度を850℃で、反応ガス線流速をパラメーターとして変化させる。生成した膜は走査型電子顕微鏡により形状を観察するとともに、流れの方向の膜厚分布を測定した。それを片対数プロットし、その傾きからもとめた総括反応速度定数は174、62.6(1/s)であった。また、窒化チタン成膜過程は中間体の拡散律速であり、中間体の拡散係数は3.1cm^2/sと求められた。更に、Chapman-Enskogの式を用いて拡散係数から求めた中間体のサイズは6Aであった。成膜種の化学成分式はTiCl_xN_yの様な分子であると考えられる。成膜したTiN膜をXPS(X線光電子分光)による組成分析したが、バックグランドレベル以上の塩素は見出されなかった。XPD(X線回折)を用いて結晶相同定した結果002面に配向性が見られた。 以上、窒化チタン成膜過程を明かにした。さらにCVD法による成膜過程を解明する手法として反応工学的な手法が有効であることをしめした。
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