粘土鉱物に代表される層状珪酸塩と種々の生化学的に重要な分子との特異的な相互作用(分子認識)の可能性を調べるために、珪酸塩の表面の官能基およびその幾何学的配置に対応して相補的な構造のゲスト分子を種々合成して、天然に存在する珪酸塩の分子認識能力を評価した。まず、ジアンモニウム塩で、アンモニウム間の距離が異なるものを7つ合成した。モンモリロナイト、サポナイトの2つのフィロ珪酸塩に対する吸着を調べるために、いくつかの競争吸着を検討した。すなわち、懸濁状態(ゾル状態)のフィロ珪酸塩にジアンモニウム塩を添加することで層間化合物生成に伴う沈殿を生成させ、層間化合物にとりこまれるジアンモニウム塩の割合を測定した。この結果、まず、カルシウムイオンとの競争吸着においては、サポナイトでアンモニウム間の距離が大きいものほど強く吸着されるという傾向が認められた。ジアンモニウムイオン間の競争吸着実験では、水中ではよりアンモニウム間の距離の長いものが良く吸着するのに対して、有機溶媒中(ジメチルスルフオキシド、アセトニトリル)では、逆に、アンモニウム間の距離が短いものほど良く吸着することが判明した。このように、溶媒を変えることによって選択性が逆転することから、ゲスト分子の溶媒和エネルギーが選択性を決定する重要な因子となっていることを示した。また、格子エネルギーも選択性に寄与していることが示唆される実験結果も得られたが、ゲストデザインをさらに行って、格子エネルギーの重要性を確認する必要がある。
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