ウマ心筋ミオグロビン、サメ(エイラクブカ)赤筋ミオグロビンの生理活性中心部位であるヘム近傍のNMRによる構造決定を行なった。NMRによる構造研究の第一段階は、観測されるシグナルの帰属であるが、本研究により、飽和移動法が常磁性ヘム蛋白質のさまざまな配位状態でのシグナル帰属に利用可能であることが初めて示された。また、本法によりシグナル帰属だけではなく、ヘム蛋白質の配位子結合反応の速度も定量的に決定できることが示された。二次元NMR法によるシグナル帰属、常磁性シフトしたシグナルのシフト値の温度依存性、核オーバーハウザ-効果の観測と解析による、ヘム側鎮の内部運動性の評価、を総合的に解釈する構造解析法をサメのミオグロビンに適用した結果、このミオグロビンのヘムは、まわりの蛋白質に対して、固定されてはいないで、温度の変化と共にヘムの蛋白質に対する配向が変わることが示された。このような、ヘムの動きが、天然のミオグロビンで検出されたのは、今回が、初めてである。ミオグロビンの機能調節に重要な役割りをはたしている遠位残基に着目し、フェリ型ミオグロビンでの酸-塩基平衡に及ぼす影響をNMRにより解析した結果、一般的、ミオグロビンが持つヒスチジン残基の側鎖のイミダゾール環は、ヘム鉄に結合した配位子に対する水素結合に、プロトンのドナーとしても アクセプターとしても働ける能力があり、配位子の結合状態を安定化するという点に関しては、その有用性が確認できる実験結果を得た。
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