本研究の目的は、船体運動情報のみから実海面の方向波スペクトルを推定し、リアルタイムで波向きを表示する簡易システムを開発する事である。本システムを実現するために解決しなければならない問題の一つに追い波中の出会い周波数と波の絶対周波数との関係が三価関数となる問題がある。本年度においてはベイズ型モデルを用いた統計的手法によりこの問題の解決を試みた。さらに、本手法の実用性を検証するために本学附属練習船汐路丸を用いた実船実験を実施した。本研究によって得られた成果は以下のとおりである。 1.前年度の研究により、船体運動の応答振幅が微小な周波数において、方向波スペクトルの推定精度が極端に低下することが明らかにされていたが、ベイズ的モデル化において推定値自体にペナルティーを課すことによりこの傾向は改善された。 2.方向波スペクトルを推定する領域を出会い角および波周波数の2次元的領域に広げることにより、追い波中の問題を解決することが可能となり、船載式波高計を用いた実船実験データから波向きを推定することに成功し、目視観測結果と良好な一致を見た。 3.本年度購入した傾斜計は優れた性能を持つが、2軸方向の回転運動のみのセンサーであり、方向波スペクトルを推定するためにはデータが不足している。したがって、上下方向加速度等の運動を計測できるセンサーを追加する必要があると思われる。なお、本年度の実船実験では汐路丸搭載の加速度計のデータを併せて使用した。 今後解決すべき問題としては、推定法の改良によってコンピュータの計算時間ならびに必要とされる記憶容量が大幅に増加し、ノート型パソコンでは実用的計算法とはいえない点が挙げられる。
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