研究概要 |
生化学的手法によらずに新しい遺伝子を単離する方法として遺伝子タッギング法がある。現在、タバコ、シロイヌナズナなど一部の植物において成功しているこの方法は、今後、植物の有用な遺伝子単離の大きな武器になると考えられている。本研究では、まず、遺伝子タッギング法がイネやオオムギなどにも応用できるのかを確かめることを目的としたが、現在まで、最も基本的な技術であるプロトプラストの効率よい形質転換法を見いだすには至らなかった。そこで、タッギング法が有効であることを確認するために、既にT-DNAタッギング法により得られている遺伝子AX1159について詳しく調べてみることにした。この遺伝子は、タバコプロトプラストにオーキシン非要求生を付与することができる。AX1159のcDNAをプロープにしてイネのゲノムライブラリーをスクリーニングしたところ、陽性のクローンを2種類得ることができた。部分塩基配列を決定したところ、これらのクローンはタバコAX1159遺伝子とアミノ酸レベルで75%以上の相同性を有していることが明らかになった。また、発現様式もタバコにおけるそれと同様に、根において発現しており、オーキシンにより誘導された。以上のことから、T-DNAタッギング法により得られたAX1159遺伝子は、イネにも存在し機能していることが明らかになった。このことは、タッギング法が有用な遺伝子をクローニングするために重要な手法となりうることを示している。さらに、この遺伝子が植物におけるシグナル伝達に関与していることを想定し、イネにおいてシグナルの長距離輸送を司る器官である節管内にタンパク質リン酸化酵素の検出を試みたところ、カルシウム依存性のタンパク質リン酸化酵素を見いだすことができた。今後は,AX1159遺伝子とシグナル伝達の関連を追求することで、その機能解明に迫っていきたい。
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