研究概要 |
申請者は,RTEM-1beta-ラクタマーゼE166N変異体が基質であるペニシリンと安定なアシル中間体を形成することを見いだし,その立体構造をx線結晶構造解析により決定した(Nature359,700-705(1992))。本研究では得られた構造から重要と考えられたSer130の触媒における機能を明らかにするため,S130A置換体を作成し解析した。Ser130側鎖の-OHはアシル中間体ではbeta-ラクタム環のN原子と近接していたので,アシル化の開環反応でこのNへのproton donorと考えられた。置換によりこの機能のみが失われると酵素と基質が共有結合した正四面体中間体の蓄積が起こるはずである。S130A酵素を生産する大腸菌のペニシリン耐性度は非生産菌より若干高い程度にまで激減した。ところが変異体を大量精製して基質に対する飽和曲線を求めたところ,予想に反してkcatは1/25程にしか低下せず,むしろKmが約50倍に増加していることがわかった。コンピュータ・グラフィックスで再検討したところ,SerをAlaに置換したことでできる隙間に水分子が侵入して触媒反応が進行する可能性が示唆された。またKmの低下は,Ser130側鎖の-OHが作る水素結合の構造安定性に対する寄与から理解できた。基質が結合するとこの残基の周辺は空間的に狭くなることを考慮して,水分子の侵入をblockできるアミノ酸を調べたところ,ThrとAsn候補として考えられた。現在S130T,S130N変異体を作成し,その触媒特性を検討中である。予備的実験から,S130N変異体ではほぼ完全に活性はなくなるようである。今後これらの変異体で共有結合正四面体中間体の蓄積の有無を直接x線結晶構造解析で解析する予定である。
|